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共鳴的にp波相互作用するフェルミ気体の普遍的な性質

講師
吉田 周平 氏 (東京大学理学系研究科)

日付
2016年6月14日(火)

時間
14:00-15:30

場所
本館 2階 H284B 物理学系輪講室

添付ファイル
PDF   ダウンロード (238.4 KB)

内容
 s波相互作用する2成分フェルミ原子系に対してShina Tanが導出した一連の関係式[1]が、基底状態か有限温度か、常流動か超流動か等に依らず、強相関領域で成り立つ普遍的な関係式として注目されている。Tanの関係式では、平均粒子間隔よりも短距離における振る舞いと、熱力学量など長距離の振る舞いとが、「コンタクト」と呼ばれる単一の物理量を通して結び付けられる。その具体的な内容は、(a) 相関関数の短距離・短時間における漸近形が普遍的なべき則に従うこと、(b) そのべき則の係数C(コンタクト)がs波散乱長に共役な熱力学量であることの2点に要約される。これらの関係式は冷却原子気体を用いた数多くの実験で検証され、s波相互作用する2成分フェルミ気体の基本的な性質として確立されている。
 近年、我々は「コンタクト」の概念をp波相互作用する系に拡張した[2,3]。その後、p波Feshbach共鳴を持つ冷却原子気体による実験でも相関関数がベキ的な漸近形を持つことが示された [4]。s波相互作用に対してp波相互作用が本質的に異なる点は、Feshbach共鳴を制御する外部磁場のために、相互作用の回転対称性が失われ、磁場方向に関する軸対称性だけを持つ点である。本セミナーでは、p波相互作用する系における、コンタクトを介した短距離相関と熱力学量の普遍的な関係式について議論する。s波相互作用の場合には、コンタクトは回転不変なただ一つの物理量であり、漸近的な短距離相関は常に等方的であった。一方、p波相互作用の場合、相互作用の異方性のためにコンタクトは一般に9成分のテンソルであること、特に超流動相における対称性の自発的な破れやトラップ形状のため、短距離相関が軸対称性を持たない場合があることを示す。

[1] S. Tan, Ann. Phys. 323, 2952 (2008), ibid., 2971, ibid., 2987.
[2] S. M. Yoshida, and M. Ueda, Phys. Rev. Lett. 115, 135303 (2015).
[3] Z. Yu, J. H. Thywissen, and S. Zhang, Phys. Rev. Lett. 115, 135304 (2015).
[4] C. Luciuk, S. Trotzky, S. Smale, Z. Yu, S. Zhang, and J. H. Thywissen, Nat. Phys. (2016).

連絡教員 物理学系 西田 祐介(内線3614)


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