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スピン・ネマティック秩序の実験的解明に向けた一次元磁性体の物質探索

講師
那波 和宏 氏 (東北大学 多元物質科学研究所)

日付
2017年6月30日(金)

時間
11:00-

場所
本館2階 H239 物理学系輪講室

添付ファイル
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内容
 最近接サイト間の強磁性的相互作用J1と次近接サイト間の反強磁性的相互作用J2が鎖内で競合し小さな鎖間相互作用を有したS = 1/2 の一次元フラストレート磁性体では、低磁場領域でのらせん磁気秩序相やスピン密度波(SDW)秩序相に加え、スピン・ネマティック秩序相と呼ばれるスピン液体状態が飽和磁場近傍で実現すると理論的に予想されている
[1,2]。通常スピンは180 度回転すると逆を向くが、隣接サイトの2 つのスピンが対を形成すると180 度回転すると元に戻る液晶分子に類した自由度が生ずる。スピン・ネマティック秩序相では、通常のスピンに関する秩序が起こらずにこのスピン液晶自由度に関する秩序が起こる。理論的にはスピン・ネマティック秩序相が存在することは確立されつつあるが、実験手法と検出方法の困難さのために実験的な実証には至っていない。例えば、モデル物質LiCuVO4に関しては強磁場NMR の実験が行われているが、Li 原子の欠損、高い飽和磁場
(41 T)等が障害となって未だ検証段階にある[3]。
 以上の問題点を踏まえ、我々はスピン・ネマティック秩序相を実証するための新しいモ
デル物質の開発を行った。その結果、格子欠陥の原因となるLi 元素を含まず、かつ飽和磁
場が26 T とより小さい新たなモデル物質NaCuMoO4(OH)を見出した(J1 = -51 K, J2 = 36 K)[4]。単結晶試料を用いた核磁気共鳴法(NMR)の測定を行ったところ、低磁場のらせん磁
気秩序相、SDW 秩序相に加えて、飽和磁場近傍の非常に狭い領域に新しい磁気相が存在す
ることが分かった。講演ではNMR の測定結果をもとにこの磁気相の起源を議論する。

[1] T. Vekua et al., Phys. Rev. B, 76, 174420 (2007).
[2] T. Hikihara et al., Phys. Rev. B, 78,144404 (2008).
[3] N. Büttgen et al., Phys. Rev. B, 90, 134401 (2014).
[4] K. Nawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82, 094709 (2013).

連絡教員 物理学系 栗田 伸之(内線2367)


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