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STMから見る薄膜における磁性と超伝導

講師
土師 将裕 氏(京都大学 大学院理学研究科)

日付
2017年9月25日(月)

時間
11:00-12:00

場所
本館2階 H284A 物理学系輪講室

添付ファイル
PDF   ダウンロード (241.4 KB)

内容
 走査トンネル顕微鏡 (STM)は、 表面における結晶構造や電子状態密度をナノスケールで解明できるツールとして、急速な発展を遂げている。特に、物性物理のメインテーマである、「磁性」と「超伝導」において、近年大きな進展を見せている。本セミナーでは、磁性と超伝導に関連した下記研究を中心に紹介するとともに、今後の展望について触れる。
(1) 磁気スカーミオンやらせん磁気構造といった複雑な磁気構造は、スピン軌道相互作用に由来する Dzyaloshinskii-Moriya 相互作用(DMI)によって引き起こされることがある。DMIは表面や界面など反転対称性の破れた系で有効に働き、相互作用の非対称性からカイラル自由度(右巻きもしくは左巻き)の破れた磁気構造が引き起こされる。スピン軌道相互作用を誘起させるWなどの重い元素の基板と、FeやMnなどの3d磁性薄膜との組み合わせによって、様々な回転方向(右巻き・左巻き)や回転型(ブロッホ型・ネール型)の磁気構造が引き起こされるが、それらを決定している要因は明らかではない。
 本研究では、W(110)上に形成されたMn薄膜におけるらせん磁気構造の詳細な磁気構造を、SP-STMを用いて明らかにし、回転型の決定には基板の対称性、回転方向の決定には基板の元素が重要な役割を果たしている可能性を示した[1]。
(2) 銅酸化物超伝導体と重い電子系超伝導体CeCoIn5は、どちらもd波対称性を示す非従来型超伝導体であるなど、共通点が多いが、不純物効果に関しても同様の議論ができるかどうかは明らかではない。銅酸化物超伝導体において、非磁性のZn不純物が強い散乱体となって、超伝導を抑制することが報告されており、不純物周辺における局所モーメントの存在が示唆されている。一方、CeCoIn5においても、同様の予測がされているが[3]、不純物周辺での局所的な電子状態は明らかにされておらず、銅酸化物超伝導体における不純物と同様な働きをしているかは明らかではない。
本研究では、分子線エピタキシー法によって、Zn置換CeCoIn5薄膜を作製し、STMを用いて不純物周辺における局所状態密度測定を行った。その結果、Zn不純物周辺における、局所モーメントの存在に関する証拠は得られなかった。この結果から、銅酸化物超伝導体とCeCoIn5における不純物効果は、同様に議論できないことが考えられる[2]。

[1] M. Haze et al., Phys. Rev. B 95, 060415(R) (2017)
[2] M. Haze et al., submitted to PNAS

連絡教員 物理学系 平原 徹(内線2365)


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